Bao, X., and Lam S. (2008)

Bao, X., and Lam S. (2008). Who makes the choice? Rethinking the role of autonomy and relatedness in Chinese children’s motivation. Child Development, 79, 269-283.

 

  集産主義 (collectivism) の国と見なされる中国において、子どもに選択させることと、身近な他者による選択が行われることが、子どもたちの動機づけにどのような影響を与えるかを調査した研究である。

 この研究の背景にはアジア系アメリカ人アングロサクソンアメリカ人を比較した Iyengar and Lepper (1999)がある。彼女らの研究では、アングロサクソン系の子どもは、タスクを自分で選んだ方が、母親が選んだ場合に比べてタスクに取り組む動機づけが高かったのに対し、アジア系アメリカ人の子どもは母親がタスクを選んだ方が、自分が選んだ場合よりも動機づけが高かったことが示された。この結果からIyengar and Lepperは、アジア系アメリカ人にとっては、自律性への欲求充足よりも、関係性への欲求充足の方が重要だと結論づけ、自己決定理論の提唱する3欲求(自律性、有能性、関係性)の普遍性に疑問を投げかけた。

 Bao & Lam (2008)には4つのstudies が含まれている。Studies 1~3では、子どもと身近な他者(母親や教師)との関係性に注目し、その関係性の質(良い・悪い・どちらでもない)によって、「選択肢を与えられるかどうか」が子どもの動機づけを高める要因となるかを調査した。質問紙調査の結果、親や教師と良い関係性を築いている子どもについては、親や教師がタスクを選んだ時も、自分が選んだ時も同様に動機づけは高かった。一方、親や教師との関係性が悪かったり、良いとも悪いとも言えない関係の子どもは、親や教師がタスクを選んだ時よりも、自分が選んだ時の方が高い動機づけを示した。Bao & Lam は、良い関係にある他者が選択をおこなった場合、子どもはその選択を内在化できるため、自律性への欲求は充足されていると考えられるとした。そのうえで、自律性=自ら選択することとした Iyengar and Lepper (1990)の定義づけに疑問を呈した。

 Study 4では子どもたちの自律性の度合い(Relative Autonomy Index を用いて、内在化の度合いを測定)と動機づけ(Engagement versus Disaffection with learning Qustionnaire)、教師と生徒の関係性の関連を調査した。質問紙調査の結果、RAIと動機づけ、RAIと教師と生徒の関係性、教師と生徒の関係性と動機づけそれぞれに正の相関がみられた。

 この研究によっていくつかの事柄が示された。まず、関係性による影響を取り除いて考えた場合、選択の自由は動機づけに強い正の影響を与える。選択の自由は、関係性によってその影響力が小さくなる。このことから、中国人の子どもは、親しみを感じている人からの要求を内在化するのではないかと考えられる*。

 教育現場において中国人の子どもに選択の自由を与えることは大切であるが、他者の選択の内在化を促進する社会情動的関係性も大事である。学習は最初から内発的動機づけを喚起するものではないため、教師が子どもとの良い関係性を築くことは特に大切であろう。

  Study 4 のinstrumentsとその使い方に興味と疑問を持った。RAIは結局内在化された動機づけ(self-determined forms of motivation)の強さを測っているようであるるが、それとengagement (この研究では動機づけと呼んでいる)の相関をとっている。要するにmore internally motivated な学習者はmore highly engaged in studiesということか。年齢が高くなれば(例えば受験を控えた高校生)、もっと外的に動機づけられていても、高いengagement を示す可能性はあるのではなかろうか。そもそもそれ以前に、RAIの項目も気になる。有効性への欲求充足が高いから self-determined forms of motivation が高くなるというのもありそうなのに、“autonomy” indexとしてしまうのはどうなんだろうか。

*Deci and Ryan (2000)は fulfillment of the need for relatedness can facilitate internalization. としているし、更に the issue of autonomy is concerned with the extent to which one fully accepts, endorses, or stands behind one’s actionsとしている。